大阪高等裁判所 昭和35年(く)20号 決定 1960年6月03日
少年 W(昭二〇・九・三〇生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告申立の理由の要旨は、抗告人等両親は原決定言渡当日原裁判所に出頭したが裁判官から二三の質問があつただけで少年の将来の取扱についての意向を表明する機会はなかつたし同行した保護司は責任をもつて矯正に協力すると申立てたが裁判所よりは何等の返答はなかつた。又右決定後少年院に面会に行つたが少年は第三国人と雑居しており、第三国人は犯罪率も多いし、日本人は日本人同志の生活によらねば教育の目的を達しないし、現に少年鑑別所、家庭裁判所の職員中にも少年院に入ると悪知恵のみ発達し再三犯罪をする者があるから少年院に送られないよう両親は努力が肝要ですといつていた位であるから、少年院自体が少年矯正の目的に期待を持てるか疑問である。一方抗告人等は今後円満に暮し少年には家庭教師を依頼し又復学を計り少年の教育を充分にするし、保護司とも協力して慈愛ある監督をするからこのさい少年を初等少年院に送致する決定は却つて少年の指導監督に不適当であるから原決定は著しく不当であるというのである。
記録を調査するに少年の両親である抗告人等夫婦(抗告人と実母○野○ヨ)の仲は従来円満を欠き、ひいて少年の指導監督が不充分であつたことは明らかであり、殊に少年の実母と離婚後少年を引取つた抗告人は少年の数回の非行を全く気付かず又義務教育すら完全に受けさせず中学校中途休学をも容認していた有様であり、他方少年の本件非行は比較的軽微であるが、少年は外向性で、思慮乏しく衝動的で、家庭に親しみを持たず、生活態度が放縦であつて非行発生の基盤としての人格的未成熟が強く作用していることが充分認められる。抗告人は将来少年の実母と円満に暮していくというが従来の経過に徴しそれが直ちに実現するとは認められず、少年の教育につき家庭教師を附し又復学を計るというが、少年の勉学の意欲不足の事実に徴し必ずしも容易且つ効果的なものとは認められないし、他方少年院が所論の如く教育的効果がないとすることは独断であり、又原裁判所が原決定に先だち抗告人等の意向を充分調査し審判期日に聴取したことが明らかに認められる。以上の点を綜合すると少年を現在のまま家庭に復帰させるよりも、むしろこれを少年院に収容して矯正数育を施し規律ある生活訓練を経て社会に復帰させるのが必要且つ適切であると認められるから、少年を初等少年院に送致することとした原決定はまことに相当である。よつて本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項によりこれを棄却することとし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小川武夫 裁判官 青木英五郎 裁判官 柳田俊雄)